ビーイング系 VS エイベックス 売上徹底比較!

 今回は90年代JPOP黄金期の中心にいた2大勢力であるビーイング系小室ファミリーを中心とするエイベックスの売上を徹底比較する。
 過去に他サイトにおいてビーイング系と小室ファミリーを比較した記事はあるものの、簡易な分析に終わっているため、本記事ではもっと詳細に分析していく。


ビーイング系とは?


 このサイトの読者なら今更に思うかもしれないが、一応ビーイングの概要も紹介しておく。「株式会社ビーイング」は1978/11/1に長戸大幸によって創立された。 創業メンバーは、長戸大幸、月光恵亮、織田哲郎、亜蘭知子と社員2人程度(織田哲郎談)で、海老名俊則(当時オフィス・トゥー・ワンの社長)と作詞家の阿久悠の出資を受けて設立された。
 本サイトでは、ビーイング系アーティストを以前の記事で以下のように定義している。

 広義「ビーイングという会社が音楽制作に継続的に関わっていたアーティスト」
 狭義「ビーイングに所属していたアーティスト」

ビーイング系アーティストを定義した以前の記事はこちら↓ 4. ビーイング系とは


今回の記事では「広義の定義」を採用して話を進める。



エイベックスとは?


 エイベックスとは、最近はYouTube等でも有名なMAX松浦氏(松浦勝人)が立ち上げた貸レコード店に端を発するレコード会社である。元々は貸レコードと輸入盤の卸売業しかしていなかったが、1990年に自社レーベルエイベックス traxを立ち上げてレコード会社へと変貌を遂げた。その後は、小室哲哉とタッグを組みtrfをヒットさせ、90年代JPOPの中心勢力の一つになっていった。 本記事では、ELTや浜崎あゆみが登場するまでのエイベックスの中心的存在だった小室ファミリーに主に焦点を当てて分析していく。


90年代年間シングル売上TOP100内訳

 以下に、勢力図ごとの年間売上TOP100内訳をグラフにして示す。
 なお、本記事においては、あくまでも勢力ごとの栄枯盛衰を比較するのが趣旨であり、レコードレーベルの比較をすることが目的ではないため、例えば、レコードレーベルはエイベックスであるものの、所属はジャニーズであるV6はアイドルと考えたり、小室哲哉のプロデュース期間の短い内田有紀をエイベックス勢(小室ファミリーを含む)と考えたり、TMNはレコードはソニーであるものの小室ファミリーの一部と捉えエイベックス勢と考えるものとしたりするなど、所属レコード会社というよりは、アーティストの属性やムーブメント単位での勢力比較としている。
※ここに勢力分類例をあげる。
 「ビーイング系とかエイベックス、パブリック・イメージというレコード会社」と「小林武史やつんくという個人(プロデューサー)」、「アイドルやビジュアル系という属性」、「黒人音楽や演歌といった音楽性」といったふうに、バラバラの分類のものを比較しているおり、本来は成り立たないような比較であるのだが、ムーブメントを理解するという意味ではある程度意味のある比較になっているはずである。 というのも、1980年から2000年にかけての邦楽界は、大まかに言うと、 となっている。もちろんビジュアル系ブーム以前からX JAPANは活躍していたり、ビーイングブームの裏ではガールポップがムーブメント になっていたりと、様々なムーブメントがあったのだが、そこは大勢に影響があったわけではないので無視する。
 今回の分類だと、小室ブームの小室ファミリーと歌姫ブームの浜崎あゆみが同じエイベックス勢に含まれているといった問題があるなどの問題があるにはあるが、とりあえずはこの分類で話を進めていく。

ビーイング系VSエイベックス勢

 ビーイング系とエイベックス勢だけを取り出して、グラフを描画してみる。
 ビーイング系は1993年に2516.6万枚(占有率:36.2%)をピークとしている一方、小室ファミリーを中心とするエイベックス勢は1675.4万枚(占有率:24.7%)をピークとしている。実は、ビーイング系の方がピーク時の売上枚数、占有率ともに高い。 実は、一勢力で2000万枚/年を超えたのは1993年のビーイングブーム時のビーイング系のみである。エイベックス勢は95年から97年の3年間に渡って約1500万枚/年の記録を残しているが、ビーイング系も同様に93年から95年にかけてほぼ1500万枚/年以上(94年のみ1500万枚弱)の売上を記録している。 ビーイングもエイベックスも、それぞれ95年→96年,97年→98年に一気に売上枚数が半分未満に低下しているのが共通しているのは興味深い。ブームが終焉を迎えると、本当に固定ファンの多いアーティスト以外の売上が一気に下がってしまうことを如実に表している。
 90年代年間シングル売上TOP100の占有比率だけを抜き出して折れ線グラフを作成した。こうやって見比べてみると、93年のビーイングブームの凄まじさが一目瞭然にして分かる。93年は、ビーイング系が18週連続週間チャート首位獲得や週間チャート首位~6位まで独占など、驚異的な記録を打ち立てただけのことはある。
 一方でエイベックス勢が最大約25%(96年)にとどまっているのは、96年は一時期ほどではないにしてもまだまだ強かったビーイング系も健在である上に、小林武史の全盛期に重なっており、さらにはビジュアル系の台頭が始まった時期でもあり、強力なライバル勢力が多かったためという事情もある。しかし、事実として「”ビーイングブーム”>”小室ブーム”」であることが数値的に示されている。  ビーイング系とエイベックスを除くと、彼らに対抗できたのは95年(16.3%)と96年(13.0%)の小林武史勢くらいである。印象だけでなく、データからも90年代の中心は、ビーイング系と小室ファミリー(エイベックス)であると裏付けられたのではないだろうか。
 1990年から1999年までの10年間の年間TOP100ランクインシングルの累計売上は、 という結果となった。ビーイング系は複数の作家がいるのに対し、エイベックス勢は売上のかなりの部分が小室哲哉(+久保こーじ)なので、小室哲哉のすごさも垣間見える。




90年代勢力ごとの栄枯盛衰
~ニューミュージックと演歌の衰退・アイドルの凋落と復活・ビジュアル系の隆盛~

 せっかく勢力別のグラフを示したので、90年代のメインストリームにいた2大勢力「ビーイング」と「エイベックス」以外の勢力ごとの栄枯盛衰に着目してみよう。
 80年代以前デビュー組はかなりおおざっぱな括りとなっているが、これには、 が主に含まれている。彼らは90年代前半の小室ブーム到来以前は、ヒット曲の中で大きな比率を占めていたことが分かる。しかし、95年(580万枚、7.0%)は94年(1200万枚、20.0%)から急に半減している。実際、CHAGE&ASKAと松任谷由実のミリオンヒットは94年のそれぞれ「Hello, my friend」「春よ、来い」、「HEART/MATURAL/On Your Mark」「めぐり逢い」と2作ずつを最後の打ち上げ花火のように2発も打ち上げた後は出ていない。なんならこららミリオンヒット作がシングルにおける最後の週間首位獲得作品である。
 古臭く映るようになってきたニューミュージックをはじめとする彼らの代わりに台頭してきたのが、ダンスミュージックを軸とする小室ファミリーやMr.Childrenやマイラバなどの小林武史勢やその他のバンド(ex:スピッツ・シャ乱Q・JUDY AND MARY・ウルフルズ・L⇔R)・SSWである。例えば、俳優もこなすSSWという枠は長渕剛→福山雅治にとって代わられた(その枠のイスを勝ち取った福山雅治の下には、藤重正孝・江口洋介・吉岡秀隆などの数多くの屍がいた…)。
 ビーイング系である大黒摩季が94年に発表した4thアルバム「永遠の夢に向かって」に収録された「Rocks」には、「♪ニューミュージックなんて聞きたくないね」という一節が登場する。このフレーズが当時の世相を反映しているのかもしれない。それを示すかのように、売上占有率の推移を見ても、92年以降はきれいな右下がりのグラフになっている。

 ビジュアル系は90年代後期に98年をピークとして急激に隆盛を迎えた。95年以前は「X JAPAN」が孤軍奮闘していた勢力であったが、94年以降の「LUNA SEA」のブレイクに、「GLAY」と「L'Arc~en~Ciel」の大ブレイクが加わることで、邦楽界のメインストリームまで駆け上がった。
 95年時点では年間TOP100位にランクインしたのはX JAPAN「Longing ~跡切れたMelody~」のわずか1曲、47.6万枚(0.6%)のみであったが、3年後の1998年にはTOP100内に22曲もランクイン、1700万枚(29.3%)を超える売上を記録している。この年は、前年にビジュアル系を市井に広めたX JAPANが解散したものの、「GLAY」がシングル2曲同時リリース、「L'Arc~en~Ciel」がシングル3曲を同時リリースするといったふうにこの二組がJ-POPの売上と注目を一手に手中に収めた年となった。加えて、前年の河村隆一(ソロ)の大ブレイクによる「LUNA SEA」のヒットもあった。 しかし、翌99年には半減し800万枚程度で前々年の97年と同水準まで売上が低下している。このように、ビジュアル系はビジュアルブームや小室ブーム以上に、ムーブメント性が強い勢力であったことが分かる。

 アイドルは、まだアイドル全盛の80年代の余韻が残っていたおかげで、90年代初頭には一定の人気を誇っていた。このころは500万枚を越す一大勢力で、占有率もおよそ20%と人気の一角を占めていた。代表的なのは、工藤静香や中森明菜、そして笑わないアイドルとして人気だった2人組のWinkである。この頃のアイドルは女性中心で、男性アイドルは既に全盛期を終えた光GENJIくらいである。バンドブームで女性ボーカルのバンド(プリンセス プリンセスやLINDBERG)も人気となっていたことから、アイドルの相対的な注目度は低下してきていた。
 それが91年、92年と進むにつれて、倍々ゲームのように占有率は1/2倍、1/2倍と人気が低下していき、1993年に最低の4.4%を記録している。しかも、この4.4%という数字は、アイドルから女優に転向していた”元アイドル”松田聖子や小泉今日子を含めた数字であり、現役アイドルだけで言えばもっと値は低い。全く”アイドル冬の時代”である。そして、このアイドル冬の時代を作り出した元凶こそ、アイドル勢の凋落を横目に勢力を拡大してきたビーイング系である。当時のビーイング系には、稲葉浩志、坂井泉水、上杉昇といった美男美女がそろっていたため、”顔だけ”のアイドルでは太刀打ちできなくなってしまったのだろう。

ビーイング系アーティストのルックスに関する記事はこちら↓ 3. ビーイング系の特徴その3 バンド名とルックス

 その後は、SMAPやTOKIO,V6といったジャニーズ勢の活躍により多少持ち直すが、本格的な復活は97年まで待たなければならない。この年、男では「KinKi Kids」、女では「SPEED」が大ブレイクを果たし、長かったアイドル冬の時代が明け、91年以来6年ぶりの占有率10%越えを果たした。


 演歌は、アイドル以上の”オワコン”で、順調にその売上、占有比率ともに減っていった。1990年には160万枚余りあった売上も、96年にはついにTOP100圏内にランクインせず(0%)と、大衆の人気という意味では”完全に駆逐されたコンテンツ”となってしまった。



ビーイング VS エイベックス 五番勝負

 ビーイング系アーティストとエイベックスのアーティストの総売上枚数で五番勝負と題して比較してみる。

ビーイング VS エイベックス(2016年時点)
ビーイング エイベックス
アーティスト名 売上枚数[万枚] アーティスト名 売上枚数[万枚]
先鋒 倉木麻衣 1,598 Every Little Thing 2,276
次鋒 大黒摩季 2,284 EXILE 2,431
中堅 TUBE 2,485 globe 2,898
副将 ZARD 3,778 安室奈美恵 3,339
主将 B'z 8,218 浜崎あゆみ 5,067
18,363 16,011

 単純にビーイング系とエイベックス勢を比較すると、ビーイング系が2勝、エイベックス勢が3勝となり、エイベックスの勝利となった。ビーイング系は、B'z,ZARDが歴代ランキングでTOP10圏内に入るクラスだが、意外にも90年代にヒットを飛ばしまくったWANDSやT-BOLANがランク外となっている。エイベックス勢は小室ブーム以降の90年代末にデビューした浜崎あゆみやEXILEもランク内に入ってきている。
 ちなみに、総売り上げはビーイング系がおよそ2,000万枚の差で上回っているが、ほぼB'zの売上が浜崎あゆみよりも3,000万枚も多いことがダイレクトに反映されているとみなせる。


ビーイング VS 小室ファミリー 五番勝負

 90年代の2大勢力としてのビーイング系アーティストとエイベックスのアーティストを比較するため、ビーイング系からはGIZA系レーベル所属の倉木麻衣を除き、エイベックスからは小室ファミリーだけをピックアップして総売上で五番勝負してみよう。

ビーイング系 VS 小室ファミリー(2016年時点)
ビーイング系 小室ファミリー
アーティスト名 売上枚数[万枚] アーティスト名 売上枚数[万枚]
先鋒 WANDS 1,376 鈴木あみ 887
次鋒 大黒摩季 2,284 華原朋美 1,232
中堅 TUBE 2,485 trf 2,172
副将 ZARD 3,778 globe 2,898
主将 B'z 8,218 安室奈美恵 3,339
18,141 10,528

 ビーイング系と小室ファミリーを比較すると、ビーイング系が5勝全勝してしまった。まあ、複数の作家がいるビーイング系と小室哲哉(+久保こーじ)一人の小室ファミリーを比較すること自体に無理があるのかもしれない。


 次に、ミリオンヒットシングルとアルバムの数を比較してみよう。

ビーイング系 VS 小室ファミリー
ミリオンシングル数
ビーイング系 小室ファミリー
アーティスト名 ミリオンシングル数 アーティスト名 ミリオンシングル数
先鋒 DEEN 2 H Jungle with t. 2
次鋒 大黒摩季 3 華原朋美 3
中堅 ZARD 3 globe 3
副将 WANDS 4 trf 5
主将 B'z 15 安室奈美恵 5
27 18
※「中山美穂 & WANDS」および「TK PRESENTSこねっと」名義のシングルは含めていない

 B'zが圧倒的に強いのは置いておいて、副将以下は意外にも良い勝負をした。ビーイング系と張り合えるというだけでも、90年代後半の長者番付で国内第4位の納税額だった小室哲哉はやはりすごい。 先ほどの総売上のランキングと見比べてみると、ミリオンシングルのランキングではビーイング系の顔ぶれがかなり変わっている。WANDSの順位が高かったり、DEENが5位に入ってきているのは興味深い。彼らはどちらかというと継続的なヒット力よりも、瞬間的な爆発力が強いと言えるだろう。それと対照的なのはTUBEである。実は、TUBEはシングルのミリオンヒットはない。(最高は「夏を抱きしめて」の93.9万枚。)

ビーイング系 VS 小室ファミリー
ミリオンアルバム数
ビーイング系 小室ファミリー
アーティスト名 ミリオンアルバム数 アーティスト名 ミリオンアルバム数
先鋒 WANDS / T-BOLAN / DEEN 1 鈴木あみ 2
次鋒 TUBE 2 華原朋美 2
中堅 大黒摩季 4 trf 4
副将 ZARD 9 globe 5
主将 B'z 19 安室奈美恵 5
35 18

 女性ボーカルアーティストの方がアルバムが売れる傾向にあるが、中堅以下はいい勝負である。しかし、絶対数はB'zとZARDが圧倒的に強い。アルバムがバカ売れしたglobeであるが、作品数でいうとそんなに多くない。しかし、クアトロミリオン×1、トリプルミリオン×1、ダブルミリオン×1、ミリオン×2なので、1作あたりの平均値はglobeがダントツで高いはずである。



 というわけで今回は、ビーイング VS エイベックスをテーマとして、他の勢力についても言及しながら解説した。90年代を語る上ではやはりビーイングと小室ファミリーの2大勢力はずば抜けて勢いのあった勢力であったことがよく分かったのではないだろうか。
 アルバムの売上で比較してみたり、初動売上で比較してみたりするのも面白そうなので、今後筆者がその気になれば続編の記事を書くかもしれない。


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売上・チャート>19. ビーイング系 VS avex 徹底比較!

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