ZARDの静と動を象徴!「この愛に泳ぎ疲れても」 名曲・名盤解説 2
今回は名曲・名盤解説の第2弾としてZARDの11thシングル「この愛に泳ぎ疲れても」をとりあげる。名曲・名盤解説の第1弾はこちら↓ 2. 天下の名曲「このまま君だけを奪い去りたい」 名曲名盤解説 1
基本データ
1994/02/02発売初動29.4万枚
初登場1位
最高位1位
売上88.7万枚
関西テレビ・フジテレビ系ドラマ「愛と疑惑のサスペンス」 オープニングテーマ
作詞:坂井泉水 作曲:織田哲郎 編曲:明石昌夫
本作はZARDの11枚目のシングルとしてリリースされた。珍しく両A面となっている。
それほど存在感はないが、実は「負けないで」「揺れる思い」「マイ フレンド」の3大ミリオンに続く、第4位の売上(約88.7万枚)を記録している。80万枚前後の高値を維持していたZARD安定期の一作である。
初動29.4万枚で初登場首位を獲得している。さらに、翌週もおよそ17.0万枚を売り上げているが、同門B'zの「Don't Leave Me」が初動で79万枚を売り上げたことから第2位となった。ZARDのシングル発売の翌週にB'zのシングル発売というのがその後も何度か見られた。
翌週リリースだったB'z「Don't Leave Me」
関西テレビ・フジテレビ系ドラマにおいてビーイング系が主題歌および劇中歌を一手に引き受けるというタイアップを行っており、本作はその3部作の最後の1作にあたる。ちなみに、1991年「ホテルウーマン」ではB'z「ALONE」、92年「ウーマンドリーム」ではT-BOLAN「Bye For Now」が主題歌であった。それに続いたのが本作「愛と疑惑のサスペンス」でのZARD「この愛に泳ぎ疲れても」である。
愛と疑惑のサスペンス エンディングテーマ曲集
作詞・作曲・編曲は 作詞:坂井泉水 作曲:織田哲郎 編曲:明石昌夫 という黄金トリオである。このメンツがクレジットされているだけで、もはや曲を聞く前から名曲であることが確約されているようなものだが、ここからはメロディー・詞・アレンジについて詳しく解説していく。
織田哲郎による強度の高いメロディー
織田哲郎によるZARDのシングルA面では珍しくマイナー調の曲である。ZARDにおいてこういった昭和歌謡的な曲は栗林誠一郎の専売特許的なイメージがあるだけに、非常に意外である。
1コーラス目はバラード、2コーラス目からは一気に速度が上がり激しくなるという大胆なアレンジ構成になっている。正直に言って、シングルでは似たようなミディアムテンポの曲が増えてきていたため、こういった変わり種的な曲をリリースしたのは戦略的にもよかったと思う。 しかし、このような大胆なアレンジを施すには、バラードであっても速度が速くなっても、美しい・カッコいいと感じられるようなメロディーでなければならない。そういった意味で、織田哲郎の美しくカッコいいこのメロディーだからこそ、明石昌夫による大胆なアレンジが可能になったと言えよう。まさに天才作曲家と天才編曲家の生み出した結晶である。
織田哲郎は自身のyoutubeにて、「この愛に泳ぎ疲れてもは昭和歌謡の伝統を引き継いだ曲」と自ら評しているが、それが坂井泉水の粘っこい歌い方に非常にマッチしている。
織田哲郎 YouTubeチャンネル
ここからは、メロディーを部分ごとに詳しく見ていこう。筆者は音楽的な素養は持ちあわせていないので、専門的な解説はできないことはご容赦願いたい。
まずはサビから入る、いわゆる、”頭サビ”というやつである。長戸大幸プロデューサーは、サビにたどり着くまでの時間が長い場合に、リスナーが飽きてしまうことを避けるために頭サビをよく使う。(例:ZARD「きっと忘れない」・B'z「Calling」など…)
実際、長戸氏はラジオにて次のように証言している。
Aメロ→Bメロ→サビと非常に鮮やかな流れを感じる。区切りがないというか、Aメロ→Bメロ→サビが一体的に感じられるメロディーである。♪すぅれちが↑ぁう恋びとぉ~達~・♪抱えな↑~がら~歩く というようにメロディーの小刻みな上がり下がりと緩急のつけ方が心地よい。
ダークな曲調ながらも、サビの出だしの♪”こ”の愛にや♪”あ”なたとの運命 のように強弱がはっきりしている部分や、”♪しゅう↑まつの雨に”、”♪あなたとぉ↑のうんめ↑い”というようにしっかり上がるところは音程が上がっており、しっかりキャッチーである。
ポカリスウェットのCM曲のように明るくキャッチーな曲が取り上げられがちな織田哲郎であるが、このようなマイナー調の曲も素晴らしいとは脱帽するしかない。
坂井泉水が魅せるオトナの恋愛
タイトルからわかる通り、この曲はドロドロとしたオトナの恋愛の世界を描いていて、それがまたメロディーに合致しているわけであるが、こういった詞は2作前の「もう少し あと少し…」でも見られた。「揺れる想い」(爽やか系・織田哲郎)→「もう少し あと少し…」(ドロドロ歌謡系・栗林誠一郎)→「きっと忘れない」(爽やか系・織田哲郎)→「この愛に泳ぎ疲れても」(ドロドロ歌謡系・織田哲郎)という流れできていたわけで、こういったドロドロ歌謡系の詞の曲でも頻繁にシングルとしてリリースしていたことが分かる。
ここからは、歌詞についても詳しく解説していこう。
※筆者なりの解釈です。解釈の仕方はいろいろあると思います。
(右下の再生ボタンをクリックすると視聴できます)
頭サビ
そして、1コーラス目・2コーラス目と順を追ってその種明かしが始まる。
1番
(私に)勇気を与えて(くれ)なのか
で話が思いっきり変わってくる。筆者はおそらく後者だと思う。「許されざる恋から手を引きたい、けれども引くに引けない、だからいっそのこと突っ切ってしまうくらいの勇気を与えてくれ!」という心の叫びなのではないだろうか。
2番
先ほど吹っ切れたとは言ってみたものの、やっぱりまだ葛藤に悩んでいるのである。
”裸の自分”というのは、この曲においてはかなり意味深である。「ありのままの自分(の感情)をさらけ出す」という意味と「不倫相手とより関係を深める」という意味がかけられているのだろう。PAMELAHの詞のように直接的な描写が頻繁に出てくるわけではないが、ZARDの曲の中ではかなりオトナな歌詞である。
静と動を表した超ドラマチックな明石昌夫のアレンジ
続いて、ビーイング系二大アレンジャーの一角、明石昌夫が手掛けたアレンジを見ていく。あえて一言で言えば、明石さんお得意のドラマチックな展開である。
まずはイントロと頭サビ。わずか10秒足らずの短いイントロであるが、インパクトが強く一気に惹きつけられる。バラードらしくピアノを主軸としつつも、ギターが入ってくることで不穏さが増している。何の音かは分からないが、後ろで低い音が波打っているのもさらに不穏さに拍車をかけている。頭サビの楽器構成も基本的にはイントロと変わらないと思う。
次に1コーラス目のA・Bメロ。歌詞が入る前のギターのフレーズがいい味を出している。そこに(おそらく)シンセベースがボーン!と思いっきり入ってくる。基本的にはドラム・ギター・ベースの3つの音でリズムパターンが進行していく。小気味よいリズムだとか、ギターのフレーズとベースのフレーズの入ってくるタイミングだとかが素晴らしい。少ない音色でこの完成度はさすが明石昌夫と感心するほかない。ギターは伸びのあるゆっくりなフレーズで”静”を演出している。そしてサビ前でビーイング系お決まりのコーラス(たぶん栗林誠一郎)が入ってきて盛り上がりの前兆を迎える。
そしてサビ。サビ前で一瞬無音になって静寂になるが、そこから一気にサビに入り、一定のリズムを刻むギター、重低音のベースがしっかり響く。一方で、(シンセ)ベルのような高音も入ってきて煌びやかなアレンジになる。ダーク一辺倒ではなく、やはりサビは明るめの音が入ってくるというこのバランス感覚が素晴らしい。
そしてこの曲の最大の特徴、1コーラス目と2コーラス目の間の短い間奏で一気にテンポが急激に上がる。BPMが変わる瞬間のシンセのおかずは、どこかで聞いたことあると感じたが、6thアルバム「forever you」の「I'm in love」(編曲:池田大介)のイントロと似ている。このシンセのフレーズがスリリングさをさらに増長させている。
明石昌夫によると、この大胆なBPMの変更は長戸Pの指示によるものだった気がするとのこと。(下記動画を参照のこと)
明石昌夫 切り抜きチャンネル
次に、2コーラス目のA・Bメロ。よりスリリングさが増したアレンジになっている。ギター・ベース・ドラムが主体のアレンジであることに変わりはないが、ビーイング系お家芸のハードロックギターがこれでもかというくらいに主張してくる。明石昌夫アレンジなので、おそらくギターは鈴木英俊であろう。非常にカッコいい。1コーラス目よりも激しく速いフレーズで”動”を演出している。このアレンジとあいまって、歌詞もより激しく揺れ動く葛藤が浮かび上がってくるようだ。
2回目のサビ。”♪このまま”のこの一瞬の”間”がサビのスピード感を一層引き立てている。直後に入ってくるドラムの音を口火にして一気に音がなだれ込んでくるようだ。シンセのフレーズが入っているほか、タンバリンの音も入っており、カッコいいだけでなく煌びやかである。(明石昌夫は「僕のサビのアレンジでは必ずタンバリンを入れている」と証言している。)1コーラス目のサビよりも各段に激しさを増している。
間奏(ギターソロ)。スピード感がある分短く感じる。まあギターソロはカッコいいの一言に尽きる。
ギターソロ明けは、明石昌夫お得意の間隔を開けた強いドラムでインパクトを与える手法である。バッキングのギターとあいまって縦ノリの強いビートをうみだしている。ドラマチックかつインパクトを与えるアレンジである。このドラムがあるおかげでその後のラスサビにさらなる勢いが感じられる。
アウトロは、ZARDでは珍しくギターソロ。とにかくカッコいい!筆者はギターを弾いたことはないが、こんなの弾けたらカッコいいなあと思うギターソロの代表である。最後の余韻が長いのも叙情的で素晴らしい限りである。
ドラマチックな構成・アレンジである分、ドラマを1話を見たような錯覚に陥るほど、聴き終えたときの満足感も高い名曲だ。
というわけで、名曲・名盤解説の第2弾として、ZARDの11thシングル「この愛に泳ぎ疲れても」を取り上げた。筆者はこの手のドラマチックな曲が大好物なので、またこういったドラマチックな曲もこの名曲・名盤解説で取り上げると思う。こうご期待!
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