ELTはZARDのパクリなのか!?徹底解析!

 筆者は最近、ELTを好んで聴いている。「え?ELTってあのavexのELT?EVERY LITTLE THINGのこと?ビーイング系ちゃうやんけ」と思われる方も多いかもしれない。しかし、ELTにはビーイング系との深い関係性があり、この記事を読めば、ビーイング好きの私がELTを好む理由を分かっていただけるだろう。

ELTとは

 ご存知の通り、Every Little Thing の3人からなるユニットで、1996年8月7日に1stシングル「Feel My Heart」でデビューした。
 最初期は、小室哲哉率いるglobeや初期B'zのようなエレクトリカルなダンスミュージックを軸とした音楽性であったが、2枚目のアルバム以降はZARDのような主たるビーイング系に近しいサウンドに変わっていった。ビーイング版のavexサウンドがPAMELAHだとすれば、avex版のビーイングサウンドがELTと言えるだろう。

 そもそも、ZARDの音楽性は、以前に本サイトで定義した典型的な”ビーイングロック”で、メロディアスでキャッチ―なメロディーにハードロックギターと煌びやかなシンセサイザーが絡み合うサウンドを特徴としている。これは主に、織田哲郎・栗林誠一郎の作曲と明石昌夫・葉山たけしの編曲、坂井泉水の作詞、鈴木英俊のギターによって生み出されていたことは読者の皆さんもご存知のことかと思う。
 そして、このメロディーとサウンド・歌詞を徹底的に研究したのが、ELTのリーダーにしてコンポーザーの五十嵐充(key.)である。熱心なZARDフリークであったことが様々なインタビューによって明らかになっている彼は、ZARDを模倣し、ELTのサウンドや歌詞などに色濃く反映させた。

 以下ではELTの二枚目のオリジナルアルバムである「Time to Destination」を題材にしてELTとZARDの音楽性の関係について詳しく解説する。

ビーイングロックを定義した回はこちら↓
14. ビーイング系の音楽性とはいったい何なのか?


ELTの2ndアルバム「Time to Destination」


Time to Destinationの画像
1998/04/15発売
初動156.4万枚
初登場1位
最高位1位
売上352.0万枚

 トリプルミリオンを記録したメガヒットアルバムである「Time to Destination」。実はこのアルバムにはZARDのエッセンスが見え隠れする。
 全体を通して言えることは、葉山たけしが大黒摩季で多用していた以上にオケヒ(オーケストラヒット)を多用(乱用)していたり、ZARDと同じようなバッキングのディストーションギターやキャッチ―かつ爽やかなメロディー・ミディアムテンポが多めといった”ZARDっぽい”要素が詰まっていたりと、ビーイングサウンドを模倣したことは明らかである。(そもそもビーイング系は洋楽の模倣なので、「パクリだ!」などと糾弾するつもりは一切ない。)

 以下では、収録曲を1曲ずつ詳しく見ていく。ZARDを模倣した、あるいはZARDからインスピレーションを受けたと思われる歌詞やアレンジをピックアップしていく。筆者の思い込みや考えすぎな部分も散見されると思うが、あくまで素人による分析なので、その点はご容赦頂きたい。

1. For the moment

For the momentの画像

 4thシングル。初の週間チャート首位獲得作品。初動11万枚なので、首位を取れたのはかなり運が良い。1stアルバム収録曲とは異なり、エレクトリカルなダンスミュージックっぽさは消え、シングルでは初のミディアムテンポに挑戦したことも相まってややZARDっぽさ(ビーイングっぽさ)が出た曲。

 歌い出しが「タクシー」から始まるのは、ZARD「Don't you see!」の「タクシー乗り場で待ってた時の沈黙は…」から着想したというのは考えすぎだろうか。 あからさまな引用はなく、ビーイング系の歌詞によく出てくる”抱きしめて”とか”瞬間”と書いて”とき”と読ますくらいしか見当たらない。(このあたりは一般的な表現なので難癖に近いが…)

 サウンド面では、メンバーにギターに伊藤一朗がいるにも関わらずスタジオミュージシャンの鈴木英俊を起用。五十嵐は徹底的に、ZARDサウンドを追及していたことが伺える。これに関連して、ビーイングのメインアレンジャーであった明石昌夫もYouTubeで鈴木英俊に関するエピソードを話している。

2. 今でも…あなたが好きだから

 五十嵐充が奥菜恵に提供した楽曲のセルフカバー。サビ頭が日本語タイトルという図式だけでビーイング感が増している。 タイトルはZARDの「あなたを好きだけど」(4thアルバム「揺れる想い」)からインスピレーションを得たと思われる。逆接を順接に反転させている。  歌い出しの坂道が出てくる歌詞は「oh my love」を意識したものだろう。 2番の冒頭、「砂浜に書いたさよならあなたへ 波にさらわれ消えてなくなってしまったよ」はどこか「きらめく波が砂浜潤して」(「揺れる想い」)を彷彿とさせる。

 メロディー・サウンドは、「揺れる想い」や「OH MY LOVE」に収録されていそうなアルバム曲という感じ。哀愁漂う雰囲気が栗林誠一郎によるアルバム曲(「Season」とか「あなたを好きだけど」など)を彷彿とさせる。

3. Face the change

Face the changeの画像

 最高位1位を獲得した7thシングルのアルバムバージョン。シングルとは若干異なるアレンジが施されており、聴いた感じイントロやサビのギターやシンセの音色・フレーズが多少変わっているようだ。この曲はZARDからの引用が特に多い。
さすがに、ZARDからの引用と言い切ることは難しいと思う…。

 少し本筋と離れるが、続けて、「だけどさみしさ誘うのは季節のせいじゃない」と出てくるが、ZARDのヒット曲には「季節」というワードが出てくるものが多い。例えば、 などである。もし、そのあたりも知った上で五十嵐が作詞しているとしたら脱帽だ。

 さらに、まだまだ引用は続く。
 そしてサビ、サビ頭に「きっと」という単語を持って来ているのはわざとであろう。 必ずしも引用とは言い切れない部分もあるが、ZARDからインスピレーションを得たと思われる歌詞が多い。特に、「揺れる」「澄んだ」を対にしているのは明らかにZARDからの引用であるし、「青く澄んだあの空」を「澄んだ色した風に」と”澄む”+”色”にしているのも分かりやすい。さらに、空と風で対になっているのもきれいである。この他にも「気楽に行こう」の歌詞が部分的に散りばめられている。

 2番に入ってもまだまだ引用が見られる。  また、サビ前の「サヨナラをするから」がカタカナ表記なのはZARDの歌詞の表現に合わせたものだろう。
 2番のサビでは、1番の「揺れる風景を」の「揺れる想い」と2番の「瞳そらさず」の「瞳そらさないで」でポカリスウェットのCMソングで対になっている。 ELTの中でもかなりZARDらしい歌詞になっていると言えるだろう。

 サウンドは攻撃的で、ギターもアグレッシブなことからPAMELAHのようだと評す者もいる。しかし、サビ前のオケヒの連打はキャッチ―でT-BOLANの「じれったい愛」や「刹那さを消せやしない」を彷彿とさせる(ZARDでサビ前にオケヒ乱打はアルバム曲で数曲程度しかなかったのではないだろうか?)。このあたりのオケヒを含めたシンセの使い方の差で、ELTの方がPAMELAHより圧倒的にキャッチ―に聴こえるように思う。

4. Old Dreams~Instrumental~

 わずか24秒のピアノのインスト曲。ここまでシングル級のキャッチ―な曲が続いたため箸休め的な意味があるのだろう。

5. モノクローム

 アルバム曲。最も露骨にZARDから引用している。メロディー・アレンジも「こんなにそばに居るのに」に酷似。 このあたりは特にどの曲から引用したかを決めつけることはできないが、複数の曲から部分的に引用している印象を受ける。単なる引用ではなく、「素直に伝えたい」↔「素直に言えなくて」というようなインスピレーションを得たと思われる表現も見られる。  特に「こんなにそばに居るのに」からの歌詞の引用はほとんど原型のままである。さらに、メロディー・アレンジも、「あのセリフのように♪」の部分は「黙らないで Loving you♪」のメロディー・アレンジに酷似している。 「ディディディディッ ディディディディッ♪」というサビ前のオケヒの連打も、「こんなにそばに居るのに」っぽさを増している。(オケヒの連打はこの曲に限った話ではないが…)
 特に、間奏明け~ラスサビまでの展開や譜割は笑ってしまうほど似ており、ZARDを意識して制作したことは明瞭である。

6. All Along

 2曲続けてアルバム曲。本アルバムの中で唯一、ボーカルの持田が作詞に加わっている(作詞:五十嵐・持田、作編曲:五十嵐)。詞は持田自身の手による私小説的な内容となっており、ZARDで言えば「forever you」に相当する。
 作編曲も、ピアノ主体の王道バラードで、間奏からエレキギターが力強く入ってくる構成も同じである。ただ、一点大きく異なるのが、ZARDの「forever you」はラスサビで再びバラードに戻るのだが、ELTの「All Along」は最後まで勢いを保ったままエンディングを迎える。

7. Hometown

 シンセとディストーションギターが絡み合うミディアムナンバー。ZARDにはここまでシンセが前面に出た楽曲はないのではないのだろうか。そこは五十嵐の作編曲ならではの部分と言えるだろう。
 故郷を懐古する青春旅立ちソングであり、歌詞全体としては坂井泉水がDEENに作詞提供した「Teenage dream」をどこか彷彿とさせる。 さすがに、タイトルを「あの微笑みを忘れないで」から拝借したとするのは強引な気がする。 ここまで来ると限りなく難癖に近いので、この曲に関しては、五十嵐のオリジナルだと思う。歌詞の雰囲気が似ているというに過ぎない。 これに関しても、偶然同じような表現になっただけで、引用とは言えない気がする。

 ZARDって意外にも旅立ち・卒業ソングがほとんどないのではなかろうか。DEENに提供した曲には「翼を広げて」だとか「Teenage dream」だとかあるけど、自身の曲ではそういった歌は基本的になく、恋愛の歌で一貫している。

8. 出逢った頃のように

出逢った頃のようにの画像

 5thシングル。最高位3位。ここまでアルバム曲が4曲続いたところに、思いっきりキャッチ―で煌びやかなthe 90年代な曲が続くという構成になっている。
 五十嵐在籍時代で唯一の日本語タイトルのシングルA面曲。小室哲哉をはじめとするavex組は、英語タイトルが原則であったのに対し、ビーイング系はサビ頭の歌詞をそのまま日本語タイトルにするのが多いという特徴があったが、avexのELTが初めて日本語タイトルを用いたという結構エポックメイキングな曲でもある。そのおかげでZARD感がとてつもなく強い。

 1曲目の4thシングル「For the moment」と同様にギターには鈴木英俊を起用。こういうスタジオミュージシャンを起用する時は、いっくんは弾いてないのか、あるいは、他の旋律を弾いているのか、どっちなのだろうか?結構疑問である。いずれにせよ、いっくんを差し置いてでも、鈴木英俊を起用するあたり、ZARDサウンドがどうしても欲しかった五十嵐の執念が感じられる。
 ビーイング系(織田哲郎)らしい、つまりは、ポカリのCMに似合いそうなキャッチ―で爽やかなメロディーにハードなディストーションギター、煌びやかでインパクト重視のシンセ。ビーイングサウンドそのものである。歌詞もかなり「揺れる想い」を意識したものになっている。女性ボーカルでこの類の音楽性を有していたのは、ZARDだけ(厳密に言えばMANISHやPAMELAHとかもいたが…売上はかなり劣るので…)だったので、ある意味、この曲がこの市場におけるZARDの寡占状態を破ったと言えるだろう。 そもそも、サビとタイトルがZARDからの引用。 ”周り”が変わってくのと”自分”が変わってくのできれいに対となっている。しかも”変わっていく”ではなく、あえて”変わってく”としたのは、引用したからに違いない。今までの例からも分かるように、五十嵐は引用する際に”対”を作ることをかなり意識していたと思われる。 「揺れる想い」以外からの引用・インスピレーションも挙げたが、この曲に関しては基本的に「揺れる想い」からの引用だと思う。他の曲に似ていても、内容的には「揺れる想い」の言い換えのような歌詞が多い。

 歌詞を比べて初めて気づいたのだが、実は構成までかなり似通っている。(そもそもJ-POP自体がみんな似通った構成なので取り立てて言うほどではないかもしれないが…)
 短縮Ver.のサビ
 →1番(しかしAメロ~Bメロの構成が異なる)
 →サビ(同じメロディーが2回繰り返しで、2回目の最後のキメの部分だけ異なるという構成まで同じ)
 →2番(ここも1番と同様に若干構成が異なる)
 →サビ
 →間奏
 →ラスサビ
という構成である。しかし、「揺れる想い」は前奏があるのに対し、「出逢った頃のように」はアカペラ始まりである。 さすがに、似すぎるとシングルとしてリリースできないと思ったのだろうか?

9. Shapes Of Love

Shapes Of Loveの画像

 6thシングル。最高位3位。ELTにとって初のドラマ主題歌。
 イントロのギターでメロディーをなぞっていることもあり、キャッチ―なサビが耳に残るミディアムナンバー。オケヒの使い方としては、ZARD的というよりは、大黒摩季的(「チョット」や「あなただけ見つめてみる」に近い感じで、いずれも編曲は葉山たけし)な使い方をしている印象を受ける。ギターアレンジもZARDというよりはPAMELAH(小澤正澄)っぽい。 ”約束”という言葉が出てくるのはこのアルバムで「モノクローム」「Hometown」に続き3曲目。坂井泉水の歌詞にも出てこないことはないが、特別好んで使っていたというわけでもないので、五十嵐自身がよく使うワードだったのだろう。 本曲に関しては全くZARDからの歌詞の引用がほとんど見られず、類似しているのは上記の部分くらいであった。そもそも、本曲は”思春期の片思いソング”であるが、ZARDには片思いソングはほとんどない。ZARDに多いのは”倦怠期のカップル”や”禁断の恋”、”引きずったままの過去の恋愛”といった歌詞で、純粋な片思いソングはZARDの範疇から外れる。 つまり、ZARDから拝借せずに五十嵐充が当時の若年女性の女心を想像して書いたということである。当時20代後半だった五十嵐充は若い女性の勉強のため女性誌を読んでいたという逸話もあるほどで、さすがの一言である。

10. True colors

本アルバム最後のアルバム曲。この曲もZARDからの引用が多い。 引用元を見て頂くと分かるように、本曲は3rdアルバム「HOLD ME」の頃(92年秋)の曲をイメージして制作したと考えられる。
 メロディー・サウンドはアグレッシブな印象で、ZARDで言えば「I want you」を意識している感じ。

11. Time goes by (Orchestra Version)

Time goes byの画像

 8thシングルのアルバムバージョン。過去最高の初動30.3万枚を叩き出したものの、ミスチルに阻まれ最高位は2位ながら、累計ではシングルで唯一のミリオンを達成。ちなみに本作が初動で負けたミスチルのシングルの累計売上は、本作の半分程度だった。

 言わずと知れた大名曲。シングルでは初のバラードながら、メロディーの良さが格段に違うため、これまで越えられなかったミリオンの壁を突破した。バラードは当たれば大ヒットするイメージだが、バラードはメロディーの良さに依存しがちなので、なかなかリスキーでもある。
 globeのダブルミリオンシングル「DEPARTURES」に似ていると言われることもある。本アルバム収録の”Orchestra Version”の弦アレンジは五十嵐ではない。やはり弦アレンジは普通のアレンジよりも難しいのだろうか?(明石昌夫も弦アレンジで分からないことがあればちゃんとした音楽教育を受けている池田大介に聞いていたと発言している。)

 荘厳で風格の漂う雰囲気はアルバムのトリを飾るのにふさわしい。ストリングスが入るとさらに厳かなイメージに仕上がるので、このアレンジでアルバムに収録したのは正解だったと思う。キーボードの五十嵐の作編曲によるバラードだからなのか、いっくんの存在感が間奏とサビくらいしかない。

 歌詞もZARDを感じるところもあるが、サビの”信じあえる喜びも傷つけあう悲しみも いつかありのままに愛せるように Time goes by♪”のインパクトが強すぎるので、オリジナルの印象が強い。


全体を通して

 この記事のタイトル「ELTはZARDのパクリなのか!?」という問いに対して答えるならば、「Yes」というのが答えになる。しかし、それはヒットしたZARDをパクれば売れるだろうというような安直な考えに基づくものではなく、五十嵐充が本当にZARD及びビーイングの音楽が好きで、そのエッセンスを取り入れた結果である。
 現に、当時のビーイングのメインアレンジャーであった明石昌夫もELTの五十嵐充が自分のアレンジを模倣したことに対し、非常に肯定的な捉え方をしている。(下記動画参照)
 この記事を書くにあたって、ELTとZARDを聴き込んだが、今回初めて気付いたこともたくさんあった。ZARDファンの皆さんには是非”ELTを通してZARDを聴く”ということをやってもらいたい。ELTというフィルターを通すことで、ZARDに対する気づきや理解が深まると思うし、五十嵐充がいかにZARDを好んでいたのかにも気付けるはずである。


このページの先頭へ戻る

アーティスト別ZARD>5. ELTはZARDのパクリなのか!?徹底解析!

関連記事