栗林誠一郎のメロディーの特徴
今回は栗林誠一郎のメロディーの特徴を素人なりに考察してみたい。
栗林誠一郎のメロディーの特徴
栗林誠一郎。1998年以降、表舞台から忽然と姿を消したが、ビーイング系アーティストへの楽曲提供及びコーラスワークを通して、彼がビーイングに残した功績はとてつもなく大きい。 ビーイング内には「織田哲郎」というあまりにもすごすぎる作曲家がいたために、どうしても栗林誠一郎の存在がかすんでしまう面は否定できない。なんなら、織田哲郎と比べられるというのが彼にとっての最大の不幸だった点といえるかもしれない。 しかし、ビーイングを語る上では、彼の存在なしには語れない重要な作曲家である。栗林誠一郎のメロディーの主な特徴を列挙する。
- 絶妙なキャッチ―さと上品さのバランス
- 哀愁に満ちたメロディーライン
- アルバムでこそ真価を発揮する美しさ
①絶妙なキャッチ―さと上品さのバランス
織田哲郎がとことんキャッチーであったのに対し、栗林誠一郎はキャッチーさも残しつつも、何度も何度も繰り返し聴かれてこそ、その良さが分かるような美しいメロディーが多い。栗林誠一郎のメロディーは、その特徴を一言で言えば、”キャッチ―さと上品さのバランスがとても良い”のである。織田哲郎のメロディーの方がキャッチ―でインパクトがあるという言い方をすれば良く聞こえるが、あえて悪く言えば、”下世話なメロディー”である。それに対し、栗林誠一郎の生み出すメロディーは、(そもそもビーイング自体がキャッチ―でインパクトなメロディーを量産している会社なので、その中での相対的な評価になるが…)最も上品さを兼ね備えている。 これは、栗林誠一郎自身がAOR(アダルト・オリエンテッド・ロック)やAC(アダルト・コンテンポラリー)といった音楽から影響を受けているからと思われる。栗林ソロならなおさら、産業ロック・ハードロック的というよりは、AOR(日本での意味で)的な雰囲気を感じられる。
しかし、CMやアニメのタイアップをセールスに繋げるという手法をビーイングがとっていた以上は、お高くとまっていてはダメで、やはり万人受けするキャッチ―さというのも非常に重要とされる。その点、栗林誠一郎の曲もキャッチ―さはしっかり保っており、その絶妙なバランス感覚には感心させられるものだ。
ミズノ IMPULSE CM「Jumpin' Jack Boy」
②哀愁に満ちたメロディーライン
栗林誠一郎の生み出すメロディーの最大の魅力と言えば、やはり哀愁に満ちたメロディーラインではないだろうか。WANDSのデビュー曲「寂しさは秋の色」なんかはあまりにもド直球なタイトルからしてそうだが、上杉昇もデモテープを聴いて”哀愁深まる秋の寂しさ”を感じ取ったのだろう。ヒット曲にはマイナー調の曲も多く、中には平成的というよりは”昭和的な”印象を受ける曲もある。ZARDの「もう少し あと少し…」に至っては、ドロドロとした歌詞も相まって”歌謡ロック”と分類して差し支えないレベルに思える。(明石昌夫によるアレンジは相変わらずディストーションギターの音がかなり主張していて全く昭和的ではないが…)
各々のYouTubeで栗林誠一郎について聞かれた際、織田哲郎も明石昌夫の二人ともが、こぞって「クリリンは良い声してたよね」と発言している。ということで、実際に「もう少し あと少し…」のデモテープを聞いてみよう。
(アルバム「Barbier first」に収録されている同曲とは歌詞が異なる)
元々、提供した楽曲が売れても、本人の曲は売れなかったのは織田哲郎も栗林誠一郎も同様である。織田哲郎ソロに対しては、何度も一流企業のタイアップをつけて売り出し、実際にチャート1位を獲得する大ヒット曲(「いつまでも変わらぬ愛を」)まで輩出できた。それを長戸社長は栗林誠一郎に対してもやりたかったに違いない。 栗林自身のルックスが良くないという理由もあると思われるが、わざわざ「ZYYG」というユニットを組ませてまで栗林誠一郎を売り出したことには、長戸の執念さえ感じられる。
画像:珍しくサングラスをしていない栗林誠一郎
ルックスが良くなかったのが最大の欠点
サングラスをしてごまかしていたというのが実際のところだろう…
③アルバムでこそ真価を発揮する美しさ
ミリオンヒット曲はないものの、50~80万枚台のヒット曲は量産しており、栗林誠一郎もまた安定して良メロディーを生み出し、世に支持されていたことが分かる。それでも、栗林誠一郎の年間作曲家ランキングの最高位は1994年の6位(推定枚数:約236.7万枚)で、実は年間トップ5に入ったことがない。 それはなぜか?このランキングはシングルA面の売上枚数のみをカウントしている。そう、ご存知のように、作曲家「栗林誠一郎」の真価はシングルではなく”アルバム”にあるということである。実際、9作連続ミリオンヒットという歴代1位の記録をもつ”アルバムアーティストとしてのZARD”を支えたのは紛れもなく栗林誠一郎である。
シングル曲とアルバム曲では、その求められる性質が異なる。一瞬でリスナーを惹きつけるキャッチ―さが必要なシングル曲とは異なり、アルバム曲には何回も聴かれてこそ、その良さが分かる深みのある曲が求められる。あまりにもメロディーが弱いと同じような曲(捨て曲)ばかりになってしまう。一方でメロディーが印象的すぎる曲ばかり続くと飽きっぽかったり、聴き疲れしたりしてしまう。 その点で、栗林誠一郎の曲は非常にバランスが良く、上質なアルバム曲が非常に多い。
その才能が最も感じられるのがZARDのアルバムであろう。シングルではキャッチ―な曲を連発しつつ、アルバムでは作品ごとのコンセプトに沿った上質な曲を提供し続けた。(コンセプトアルバムとまでは言えないが、プログレなどの影響を受けているビーイングの制作陣の間には、アルバムごとに一貫したコンセプトを貫こうという意識がはたらいていたように思われる。)
そしてZARDのアルバムに最も多く収録されたのが栗林誠一郎の曲である。全盛期のオリジナルアルバム「HOLD ME」~「forever you」までに収録されている計41曲のうち、過半数の実に21曲が栗林誠一郎の作曲である。アルバムにおけるZARDの世界観を生み出していたのは栗林誠一郎であったと言っても過言ではない。
栗林誠一郎が世界観を作り出していた |
特徴をプロット
前回の織田哲郎の回と同様に、”完全に主観で”キャッチ―さと曲調を軸に取り、栗林誠一郎のメロディーの特徴をプロットしてみる。シングル曲のみをピックアップしたので、比較的明るい曲も多いが、マイナー調の曲がシングルでも多く、アルバム曲には、「寂しさは秋の色」や「もう少し あと少し…」のような哀愁の強いタイプの曲が多い。
このページの先頭へ戻る
ビーイングについて>11. 栗林誠一郎のメロディーの特徴