ビーイング系アーティストの棲み分け
ビーイング系アーティストの楽曲はまるで工業製品のように作られ没個性的だ…と批判されることが多い。確かに、ビーイング系を好まない人には、似たようなアーティストがいっぱい出てきてはすぐに消えていった…と思われるのも無理はない。しかしながら、長戸Pをはじめとするプロデューサー陣は"何らかの意図"をもってグループを組ませ、デビューさせたはずである。
たしかに似てはいるものの、違った個性が出るように、どのような違いを各グループにもたせていたのかを分析する。
男性ボーカル編
たしかに似たような雰囲気と音楽性であっても、人数・ボーカルの性別・楽器編成・編曲者の違いなどで差別化していた。まずは、男性ボーカルでどういう差別化がなされていたかを見ていく。
男性ボーカルアーティストの分類
ソロ
ソロは基本的に作家陣やベテランアーティストが多い印象である。例外的に「REV」と「EDGE」が完全にキャラ被りしている。ただ、元々REVは栗林誠一郎と出口雅之との2人組になる予定だったので、長戸Pの意に反して生まれたユニットである。このあたりはビーイングブームに乗じてイケイケドンドンで新人を乱発デビューさせた”つけ”と言えるだろう。音楽性に関しても、REVはシンセを大胆に取り入れたサウンド(大黒摩季やKIX-Sに近い)なのに対し、EDGEはそうでもなかったところでは差別化できている。他にも矢嶋良介などもいるが、ここでは省略させてもらう。REV | EDGE |
2人組
2人組にはビーイングで(というか日本で)最も商業的な成功を収めた「B'z」がいる。90年代前半のビーイングはB'zの成功を礎にして勢力を拡大させていった。そういうわけで、会社としても第二、第三のB'zを輩出しようと躍起になったはずである。しかし、意外にも2人組はB'z以外には「ZYYG」「GEARS」くらいしかいない。これは珍しい2人組という形態では、B'zの二番煎じ感がどうしてもぬぐえないからだと思われる。それでも楽器編成の形態を変えて、ZYYG、GEARSの2組を送り出しているが、アレンジを明石昌夫が手掛けていないことは特筆すべきポイントだろう。
B'z | ZYYG | GEARS |
3人組
3人組には「WANDS」「TEARS」がいる。「WANDS」結成の際には、Vo.とGt.の2人組というB'zの編成とかぶらないように、Key.を加えた3人組にしたというのがよく言われる話である。明石昌夫による初期B'zのようなダンサブルなサウンドやロックサウンド・葉山たけしによる爽やかなロックが見られ、典型的なビーイングサウンドを展開したが、キーボードがいることに意味があったのかと聞かれると微妙な気がする。それでも視覚的に3人というだけでB'zとは異なるという雰囲気を出すことに一役買ったことには間違いないだろう。また、「TEARS」はビーイング系の中では珍しくアコースティックな路線を展開した。
WANDS | TEARS |
ところで、3人組というのは往々にしてうまくいかない。「ドリカム」も「ELT」も「マイラバ」も近年で言えば「いきものがかり」も1人が脱退し2人組になった。「THE ALFEE」のように長く続いているユニットもあるが、脱退確率が高いように感じる。WANDSもデビューから約1年で大島康祐が脱退、その数年後には上杉・柴崎が脱退と、多分に漏れずメンバーの脱退を繰り返している。
4人組以上
4人組以上、すなわち一般的なバンド形態は有名なバンドだけでも「T-BOLAN」「TUBE」「BAAD」「DEEN」「FIELD OF VIEW」の5組がいる。Vo.,Gt.,Dr.は共通として、残りの1人がBa.なのかKey.なのかで差別化されており、ベースのいるバンドにはベーシストの明石昌夫がアレンジを手掛け、キーボードのいるバンドでは葉山たけしがアレンジを手掛けるという棲み分けがなされていたようである。また、TUBEだけは自身でアレンジまで手掛けていてかなり異色である。基本的にはうまく棲み分けされているが、DEENとFOVだけは編成も同じで編曲者も「葉山たけし」、しかもボーカルは池森・浅岡の両者とも爽やかさを売りにしているなど、完全に”キャラ被り”してしまった。男性ボーカルではここの棲み分けが唯一の大きな失敗と言える。
T-BOLAN | TUBE | DEEN |
FIELD OF VIEW | BAAD |
女性ボーカル編
続いて、女性ボーカルでどういった差別化がなされていたかを見ていく。
女性ボーカルアーティストの分類
女性ボーカルの場合、男性ボーカルに比べてソロが多い。これには、ZARDの大成功を受けてソロ女性ボーカルを次々にデビューさせたこと、90年代前半にガールポップが全盛期を迎えたことなどが要因としてあげられる。男性ボーカルではむしろ4人以上のバンドが多い。
ソロ
ソロでは、明石昌夫がメインアレンジャーを務める「ZARD」、葉山たけしがメインアレンジャーを務める「大黒摩季」と女性ボーカルの”二大看板”がうまく棲み分けされていた。ZARDの場合、95年以前からも葉山たけしによる編曲は見られるが、基本的にシングルA面は明石昌夫が担当している。また、描く詞の世界が坂井泉水と大黒摩季では全く異なるので、両者のメインターゲット層であった当時のOL層を奪い合うようなこともなかったと考えられる。「宇徳敬子」は葉山たけし・池田大介のコンビで、よりナチュラルでソフトな路線を志向していた。「川島だりあ」はよりハードな路線で西田昌史や倉田冬樹といった明石・葉山・池田以外のアレンジャーと組んでいたことから、少し異色である。
その他のマイナーな女性ソロは、一応アレンジャーの違いで棲み分けされているが、ビーイングオタク以外から言えば、そもそも知らない、聞いても違いが分からないという感じだったのではないだろうか。ビーイング好きからすると違いが感じられ、声質や歌い方から言っても、例えば「森下由実子」はパワフルでハードな路線を志向(明石・小澤路線)していた一方で、「柳原愛子」はZARDをさらに上品なお嬢様風に仕立て上げたイメージで、上品なロック(池田路線)を志向していた。
ZARD | 大黒摩季 | 川島だりあ |
宇徳敬子 | 森下由実子 | 柳原愛子 |
2人組
2人組にはよく比較される「MANISH」と「KIX-S」、さらには「PAMELAH」、「KEY WEST CLUB」などがいた。「MANISH」はVo.とKey.で明石昌夫のサウンドプロデュース、「KIX-S」はVo.とGt.で葉山たけしのサウンドプロデュースと、完全にはB'zとは被らないようになっていたものの、両者とも女性版B'zと形容されることが多い。音楽性としては、MANISHの方がKey.がいるからか、より王道のビーイングサウンドで、歌い方が大黒摩季に似ていた。一方、KIX-Sは日本人女性初のプロギタリストの安宅美春を擁していたからか、よりハードロック志向ではあったものの、オケヒなどのシンセの大胆な導入という点においてはMANISHと共通している。 また、MANISHは織田哲郎や栗林誠一郎、川島だりあなどからの提供を受けたのに対し、KIX-Sは自作曲だけと、曲作りにおいても差別化がなされていた。
「PAMELAH」は当時珍しい男女2人組のユニットで、ビーイング内では珍しく小室哲哉のダンスミュージックを意識したサウンドづくりをしていた点で異色である。あとはアイドル部門の「KEY WEST CLUB」(中谷美紀の黒歴史)などがいた。
MANISH | KIX-S | PAMELAH |
3人組
3人組には、B.B.クィーンズのコーラス隊にしてアイドル部門の「Mi-Ke」、織田哲郎のいとこ「関ゆみ子」を中心とした高学歴ユニット「Beaches」、WANDSを脱退した大島康祐を中心とする「SO-FI」などがいる。Mi-KeはGSのオマージュが中心な上、テレビ出演やCM出演も積極的にすることで、ビーイングのアイドル部門として確かな地位・イメージを築いていた。
Mi-Ke | Beaches | SO-FI |
4人組以上
4人組以上、すなわち一般的なバンドは川島だりあを中心とする「FEEL SO BAD」や織田哲郎がプロデューサーを務めた「BA-JI」、企画ユニットの「B.B.クィーンズ」がいた。「FEEL SO BAD」は正統派HMバンドとして活躍していたし、「BA-JI」はレゲエを取り入れた独自のサウンドを追及していた。「B.B.クィーンズ」は「渚のオールスターズ」に続く”企画ユニット”=”お祭りバンド”として活動するという風にかなり棲み分けがなされていた。逆に普通の王道のビーイングロックを志向するバンドがいなかったのである。このあたりは「PRINCESS PRINCESS」に代表されるバンドブームの終焉も影響していると思われる。
BA-JI | FEEL SO BAD |
男女ボーカルをあわせて見比べる
最後に、男性ボーカルの樹形図と女性ボーカルの樹形図を並べて表示して見比べてみる。男性ボーカルと女性ボーカルでは形態が結構異なることが分かる。同一の楽器形態を有するユニットで特筆すべきなのは、やはりVo.&Gt.の「B'z」「KIX-S」「PAMELAH」だろう。実際にサウンドも似ており、明石昌夫なりのハードロック、葉山たけしなりのハードロック、小澤正澄なりのハードロックが堪能できる。
今回は、個性がないと言われることもあるビーイング系アーティストを、ボーカルの性別・楽器編成・編曲者・サウンド志向などによって分類し、どのように棲み分けがなされていたのかを調べた。
同じようなアーティストを次々にデビューさせたという主張に対しては否定できない部分もあるが、それぞれのグループの個性が出るように長戸Pが最低限のラインでは考えながらデビューさせていたことも垣間見えたのではないだろうか。
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