Risky「My life is...」vs 島谷ひとみ「解放区」
世紀末に突如としてavexから現れたビーイングサウンド。その二大巨頭といえば、Riskyこと島崎和歌子の「My life is...」と島谷ひとみの「解放区」である。今回はこの2曲を徹底比較していく。
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リリース時期の差がたった1年しかないにも関わらず、Risky(島崎和歌子)「My life is...」(1999年発売)が縦型の8cmシングルなのに対し、島谷ひとみ「解放区」(2000年発売)は12cmシングル(マキシシングル)なのが、当時の音楽業界の時代の変遷の速さを感じさせる。
Risky「My life is...」
まずは、Risky「My life is...」の基本データを示そう。
Risky(島崎和歌子)
avex trax
1999/04/21発売
作詞:秋元康
作曲:織田哲郎
編曲:明石昌夫
初動:0.8万枚
最高位:37位
売上:1.4万枚
オールスター感謝祭EDテーマ
TBSで放送された1999年春のオールスター感謝祭の企画として制作された。18:30~24:00の5時間半の生放送中に(放送開始から16回目を記念して)エンディングテーマを作ることがMCの島田紳助により企画されたとされている。 生放送中に島田紳助により、歌手を務める人物がMCを務めるはずだった島崎和歌子であると発表された。なお、島崎和歌子の台本では織田無道がボーカルになることになっていた。 ジャケット撮影・レコーディング・工場でのプレスまでを生放送中の5時間半で行い、出来上がったCDを番組放送終了間際に持ってTBSの赤坂スタジオまで持って帰ってきた。放送中の松浦勝人氏の発言によると、売上目標は5万枚で、少なくとも5万枚のCDがプレスされた。しかし、実際の売上は1.4万枚にとどまった。
中央:秋元康(作詞家) 右:松浦勝人(avex専務)
アーティスト名は、出演者のアンケートにより決められた。候補はavexから発案され、以下の2案があった。
- Thanksgiving Day
- Risky
番組中に出演者に行われたアンケート
アンケートの結果、Risky(※本企画がリスキーなことに由来)が120票、Thanksgiving Day(※感謝祭の英訳に由来)が64票と、ダブルスコアで「Risky」に決定した。 レコーディングからCDのプレスまでににかかった時間として、4時間28分は世界最速記録でギネス記録となった。ただし、作詞・作曲・編曲は放送前に行われていると思われる。
なお、島崎和歌子にとってはアイドル時代以来6年ぶりの楽曲リリースとなった。また、秋元康にとっても、90年代前半の「とんねるず」に提供した楽曲がヒットして以来、作詞家としてはヒット曲がない中での楽曲提供となった。
島谷ひとみ「解放区」
もう一方の島谷ひとみ「解放区」の基本データを示そう。
島谷ひとみ
avex trax
2000/09/27発売
作詞:松井五郎
作曲:織田哲郎
編曲:明石昌夫
初動:1.4万枚
最高位:28位
売上:4.4万枚
カネボウ「REVUE」CMソング
作詞には、氷室京介や安全地帯、工藤静香への楽曲提供で知られる松井五郎を迎えた。
島谷ひとみ自身は前作『大阪の女』で演歌歌手としてデビューしており、それ以来、約1年2か月振りの発売となった。島谷のポップス転向第1弾シングルであり、J-POPシンガーとしては実質的にデビュー作とも言える。 奇しくも、デビューシングルの「大阪の女」は関西テレビ「紳助の人間マンダラ」という番組の企画で島田紳助がプロデュースしている。当時のテレビ業界には、
島田紳助×番組の企画もの歌手=織田哲郎×明石昌夫×avex
という方程式でもあったのであろうかと疑いたくなるような一致度合である。
本作はテレビの企画ものでもなく、CMソングとして起用されているため、avexとしてもより本気で売り出そうとしたと思われる。
カネボウ「REVUE」CM
「My life is...」vs「解放区」
ここからはこの2曲を徹底比較していく。| 項目 | My life is... | 解放区 |
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| 発売日 | 1999/04/21 | 2000/09/27 |
| レーベル | avex trax | avex trax |
| 作詞 | 秋元康 | 松井五郎 |
| 作曲 | 織田哲郎 | 織田哲郎 |
| 編曲 | 明石昌夫 | 明石昌夫 |
| 売上枚数 | 1.4万枚 | 4.4万枚 |
| 最高位 | 37位 | 28位 |
売上的には島谷ひとみに軍配が上がり、およそ3倍の差がついた。しかし、そもそも両者とも売上は5万枚に満たず、最高位も20位以下と、お世辞にも売れたとは言えない。織田哲郎×明石昌夫の最強タッグと思えないほど売上は芳しくなかったことは、大衆からビーイングサウンドが既に時代遅れなものに映っていたことを示唆している。
Risky「My life is...」
Risky「My life is...」は、こってりとした”もろビーイングサウンド”である。”ビーイングサウンドとはどんな音楽性なのか”については下記の記事を参照されたい。↓ビーイングサウンドとは!? 14. ビーイング系の音楽性とはいったい何なのか?
ビーイングらしいキラキラとした高音のシンセが鳴り響くイントロから始まる。そして、ジャジャジャジャジャジャジャというZARD「きっと忘れない」のサビ前ばりのディストーションギターが入ってくる。サビ前の一瞬の”静”とサビ前のギターはまさに往年の明石昌夫節である。 全体的にバッキングのギターはZARD「きっと忘れない」「この愛に泳ぎ疲れても」やMANISH「声にならないほどに愛しい」「煌めく瞬間に捕われて」といったビーイング時代の明石昌夫のヒット曲でよくある鈴木英俊のギターを彷彿とさせる。この曲のギターが鈴木英俊によるものなのかは筆者自身は確証がないため分からないが、明石昌夫に頼まれて鈴木英俊がギターを弾いている可能性も十分にあり得る。 コーラスもビーイング系を彷彿とさせる多層のコーラスが入っている。ギターソロもダンスミュージックの会社であるavexから発売された楽曲とは思えないほどにしっかりしているし、エンディングもギターソロがある。
織田哲郎によるメロディーも素晴らしい。しかし、サビのメロディーにビーイング時代ほどの強烈なインパクトがなかったことが、この曲があまり売れなかった要因の一つであるように思う。とは言っても、やっぱり織田哲郎らしいキャッチーな曲に違いはない。特に、AメロからBメロの流れ、Bメロからサビへの流れは美しい。織田哲郎のキャッチーで爽やかなメロディーと明石昌夫お得意のアレンジとが相まって、ビーイング系のようなドラマチックな曲に仕上がっている。
何気に歌詞も良い。CDチャートを破壊した張本人として筆者は秋元康のことを嫌っている面があることは否めないが、それでも作詞家としては結構良いなと思う歌詞を書いていたりする。
- 「間違っていても 遠回りすればいい 時間(とき)は味方だよ 決心を信じていれば 夢に続くよ♪」
- 「しあわせな日々は当たり前すぎて しあわせに気がつかないね♪」
オールスター感謝祭での一幕
バラドルの島崎和歌子の曲と思って、バカにした聴衆も多いのかもしれないが、楽曲としてのクオリティーとしては非常に高い。まあ、工業製品と揶揄されるビーイングの強力作家陣がタッグを組んだのだから当然といえば当然なのだが…。 MANISHのシングルとして売り出さていても何ら違和感はないクオリティーである。そもそも企画ものであったし、売上的にも奮わなかったが、織田哲郎×明石昌夫が手がけた高品質な楽曲として、もっと評価されるべき楽曲の一つだろう。
ぶっつけ本番のレコーディングとは思えない島崎和歌子の歌唱も良い。歌詞を等身大の歌い方で純粋に歌唱しているのも、日本人が好きなある種の切なさ、叙情的というか、そういったものが感じられる。
島谷ひとみ「解放区」
島谷ひとみ「解放区」は、ZARDやMANISHのような典型的なビーイングサウンドといえばビーイングサウンドだが、どちらかといえばPAMELAHやELTに近いサウンドだと思う。
オケヒ(オーケストラ・ヒット)の使い方は、明石昌夫がMANISHなどで用いていた手法でもあるが、全体的な打ち込み感がダンスミュージックを取り入れていたPAMELAHやELTに近いと感じさせる。そもそもPAMELAHはビーイング系であるし、ELTもZARDのフォロワーであることを考えれば、十分ビーイングサウンドなのだが、王道のストレートというよりかはちょっと変化球かなと…。チェンジアップくらいですかね(笑)。 シンセサイザーを大胆に取り入れた手法はビーイング時代のままに、時代の変化に合わせて、というか時代の寵児であったavex色を強めたという印象である。静と動を使い分けるクレバーでドラマチックなアレンジも健在だ。
↓ZARDのフォロワーELTについて 5. ELTはZARDのパクリなのか!?徹底解析!
ビーイング系の典型的な楽曲(例:ZARD)に比べてコーラスの主張が強い。さりげない栗林誠一郎の甘い声(だけではなく、大黒摩季・宇徳敬子・生沢佑一などもいるが…)がビーイング系のコーラスの一種の特徴だったが、「解放区」は力強い高音である。力強いといっても大黒摩季や川島だりあのコーラスとは少し毛色が異なり、theきれいな高音という感じである。
織田哲郎によるメロディーは、本人の弾き語りを聴くのが最も良さを感じられると思う。まずは本人の解説を聞いてみてほしい。
織田哲郎YouTube「解放区」
本人は、メジャーっぽくもありマイナーっぽくもあるメロディー、強いて言えばメジャー感のあるマイナーな曲と評している。こういった明るさの中に寂しさが同居するような曲は織田哲郎の得意分野の一つといったところだろう。有名どころでいえば、酒井法子の「碧いうさぎ」もこのタイプに該当するだろう。
筆者は、高音で伸びるところが多いメロディーという印象を受けた。そこが聴き手に広大・雄大な印象を与え、松井五郎による「解放区」というタイトルをもたらしたのではないかと予想する。
今回は、同じ時期にavexからリリースされたRisky「My life is...」と島谷ひとみ「解放区」を比較した。個人的には、王道のビーイングロックを体現するRisky「My life is...」の方が好みですかね。
それはそうとして…、avexからまさにビーイングサウンドそのものの楽曲が似たような時期にリリースされたことそのものが面白いし、楽曲としてのクオリティーもさすがである。売上は芳しくなかったかもしれないが、ぜひビーイングフリークの皆さんには、”織田哲郎×明石昌夫”のエッセンスがもろに出ているなと思ってニヤニヤしながら聴いてほしいものである。
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