シングル売上とアルバム売上の相関関係

 今回は、シングル売上とアルバム売上の相関関係を定量的に分析してみた。

アーティスト別シングル・アルバム散布図

 まず、アーティスト別の収録シングルの平均売上(横軸)とアルバム売上(縦軸)を示す。 (例えば、ZARDの「OH MY LOVE」の場合、「もう少し あと少し」「きっと忘れない」「この愛に泳ぎ疲れても」の計3曲が収録シングルに該当する。)


※1.フル・ミニ問わず1990年代に発売されたオリジナルアルバムのみが対象。
※2.先行シングルのみの平均値を算出。(シングルカットされたシングルは含まない。)
※3.シングル未収録のアルバムは除外。
※4.横軸が10~20万枚の場合、階級値の15万枚で代表して表示。
※5.同じ階級(横軸)に複数のアルバムがある場合、アルバムの平均売上を算出。


 このグラフを見て気づくことはないだろうか。globeやドリカム、ELTなど女性ボーカルグループが相対的に左上を占めており、中間のボリュームゾーンにはB'zやサザン、Mr.Children、GLAY、ZARD、ユーミンなどのメガセールスを記録したアーティスト達が集まっている。 一方で、右下側は、ヴィジュアル系の一部やスピッツ、米米CLUB・CHAGE&ASKAや長渕剛といったベテランアーティストの比率が高い。そして、最も右下にいるのがアイドルである。男性で言えばジャニーズ、女性で言えば80年代アイドル(女優に転向した人も含む)が集中している。


アーティストタイプ別の散布図

 そこで、本稿では、
  1. ビーイング系 赤色
  2. 小室哲哉ファミリー 青色
  3. その他エイベックス(ELT・相川七瀬) 水色
  4. 小林武史系(Mr.Children・マイラバ) 緑色
  5. 80年代以前デビュー勢(サザン・米米・ドリカムなど) オレンジ色
  6. ヴィジュアル系(GLAY・ラルク・X JAPAN・シャ乱Qなど) 紫色
  7. アイドル(ジャニーズ・80年代アイドル・女優) 黄色
の7つのタイプに分類、色分けして散布図を作ってみた。
 黄色のアイドルが見事に右下側に集中している。さらに特筆すべきなのは、アイドルのオリアルで100万枚を越えているものがないという点である。さらに、ビーイング系のほぼ唯一のアイドル部門「Mi-Ke」も見事に他のアイドルと同様の領域にプロットを集中させている。

 詳しく見るために、アルバム売上が100万枚以下の領域だけ拡大して表示すると次のグラフのようになる。
 このグラフの黄色(アイドル)の上限値を直線で近似すると、黒い直線が得られる。このy=0.577x+10.467で表される直線を境に、その他のアーティストの領域とアイドルの領域をきれいに分けることができる。

 では、このようにきれいに領域がわかれる理由は何なのか?以下ではそれを詳しく紐解いていく。


アイドルはなぜシングルに対しアルバムの売上が低いのか?

 要因として挙げられるのは、人気獲得の根本的な仕組みの違いである。

 アーティストが人気を獲得する要因としては、メロディー・サウンド・歌詞世界の3大要素(要は作詞・作曲・編曲)の良さや声質が一番に来て、その次にグループの雰囲気やルックスといったものが来る。ファンになるきっかけになったり、ルックスが好きだからという理由だけでファンになったりすることもあり得るが、基本は”曲ありき”である。

 一方で、アイドルには、「アイドル」という言葉が意味しているように「偶像崇拝」が根本にある。”曲ありき”のものではなく、その人物のルックスやキャラクターが好きだからCDを買うという構図になっている。そのため、メロディー・サウンド・歌詞世界よりも、”そのアイドルが歌ったり踊ったりしていること”そのものに価値が見出される。少し乱暴な言い方をすれば、歌われる曲はどんな曲であっても良い(それが仮にドレミの歌であっても)のだ。 そのため、オリジナルアルバムは収録曲のメロディー・サウンド・歌詞とそのつながりや多様性が1つの作品として評価されるという特性上、アイドルのオリジナルアルバムは偶像崇拝しているファン以外の層には買われないため、シングルに対してアルバムの売上の比率が低くなる傾向にある。逆に言えば、固定客はどんな曲でも買ってくれるため、非常に安定して利益の見込めるコンテンツでもある。
 さらに、21世紀に入ってからは握手会やお話会のようなイベントが特典としてついてくるため、一層この傾向が強まっている。握手会などによるアイドルとの接触という身体的欲求と、自分がCDを爆買いすることによって推しのアイドルがランキングで1位を取れたというような精神的欲求を満たす存在になっている。

 したがって、収録シングルの平均売上に対するアルバム売上比率の高い歌手・グループがよりアーティスト性の高いアーティストと規定できるだろう。言い換えれば、同性からの支持が厚いアーティストとも言えるかもしれない。


ビーイング系のプロット

 ビーイング系アーティストに焦点を当ててみる。次の図はビーイング系アーティストに、アルバム売上率の低い歌手の代表としてアイドルとアルバム売上率の高いglobe・サザン・ユーミン・ドリカムの4組を加えた図である。
 赤のビーイング系は、
  1. ZARD, B'z, DEENといった比率が高い(近似直線の傾きが大きい)グループ
  2. WANDS, FIELD OF VIEW, MANISHといった比率の低い(近似直線の傾きが小さい)グループ
  3. T-BOLAN, 大黒摩季, TUBEといったばらつきの大きいグループ
の3つに大別される。

 アルバム売上比率が低いグループのうち、WANDSやMANISHはルックスが良かったことからややアイドル的な見方をされる向きがあったことによるもの、FOVはタイアップでシングルが異常に伸びただけという異なった事由によるものだと思われる。
 ばらつきの大きなグループのうち、大黒摩季は特に初期に固定ファンの獲得に苦労したことによるもの、T-BOLANはリリースラッシュにより飽きられるのが早かったことによるもの、TUBEはアイドル然とした存在から徐々にアーティスト性を獲得していった結果、及び、あまりにも同じような夏曲を連発し過ぎてシングル売上のバブルが崩壊したことによるものと考えられる。
 


男性ソロシンガーとガールポップ

 ビーイング系とアイドルに加え、今度は男性ソロシンガー4名(福山雅治・氷室京介・槇原敬之・T.M.Revolution)とガールポップに分類される久宝留理子・平松愛理・森高千里などやLINDBERG、80年代デビューのSSW今井美樹・浜田麻里を加えてグラフを描いてみた。
 このグラフから分かることは、男女問わずロック色が強くなるほどアーティスト性が高まる傾向にあるということである。ガールポップでは、久宝留理子や松田樹利亜、久松史奈など、ハードロックをベースにしたハードポップを志向したシンガーも多かったが、これらのアーティストはシングルのスマッシュヒットにとどまり、アルバムが大きな売上をもたらすほどに人気が定着しなかった。

 福山雅治や森高千里、T.M.Revolution(1作を除く)などはアイドルとの境界に近いところに分布しており、アイドル性の強いアーティストであることが分かる。実際、森高千里なんかは、当時からアイドルでもないけど、本格派アーティストでもないみたいな微妙な位置づけの認識だったのではないだろうか。
 むしろビートロックの氷室京介やルックスのそこまで良くない槇原敬之、ユーミンに憧れていた今井美樹などは、一般的なビーイング系アーティストに近い分布をしている。また、LINDBERGはロックバンドということもあり、多少左上側に分布しているが、アイドル性がなかったわけでもなさそうだ。浜田麻里も同様である。

 少なくとも確実なのは、甘いマスクをした福山雅治のようなタイプのSSWやガールポップに分類されるような女性アーティストは、アイドルとは一線を画すものの、比較的アイドルに近い存在であったことが分かる。(福山雅治だけはちょっと怪しいが…)



 というわけで、シングルとアルバムの売上比率からアーティストを分類したところ、散布図からアーティスト性をある程度定量的に把握できることが分かった。


このページの先頭へ戻る

雑論>3. シングル売上とアルバム売上の相関