黄金の90年代 一発屋アーティスト

 CDバブルに湧いた黄金の90年代。その中で大きな一発を当てたものの、”一発目”に迫る二発目を当てられず一発屋に終わったアーティストを特集する。

90年代の一発屋候補

 まず、一発屋アーティストと思しきアーティスト達の最高ヒットと2番ヒットの一覧を表にまとめた。その差が3倍程度以上の開きがあるアーティストを思いつく限りピックアップしている。

※画面幅が狭い場合、横にスクロールできます。


アーティスト シングル名 日付 最高順位 売上 売上比
KAN 最高 愛は勝つ 1990/09/01 1 201.2 11.1
2番ヒット まゆみ 1993/04/21 17 18.2
篠原涼子 最高 恋しさと せつなさと 心強さと 1994/07/21 1 202.1 3.2
2番ヒット もっと もっと… 1995/02/08 3 62.3
大事マンブラザーズバンド 最高 それが大事 1991/08/25 1 160.3 38.2
2番ヒット うたをうたおう 1992/04/25 22 4.2
B.B.クィーンズ 最高 おどるポンポコリン 1990/04/04 1 164.4 3.7
2番ヒット ギンギラパラダイス 1990/12/19 2 43.9
PINK SAPPHIRE 最高 P.S. I LOVE YOU 1990/07/25 2 45.2 3.8
2番ヒット 抱きしめたい 1990/11/07 5 11.8
小田和正 最高 Oh! Yeah!/ラブ・ストーリーは突然に 1991/02/06 1 258.8 7.2
2番ヒット いつか どこかで/風と君を待つだけ 1992/01/25 5 36
小野正利 最高 You're the Only… 1992/08/01 2 114.1 6.7
2番ヒット Forever My Love/Keep on Shinin 1993/02/21 9 17
沢田知可子 最高 会いたい 1990/06/27 6 105.6 7.9
2番ヒット 幸せになろう 1993/07/21 38 13.4
バブルガム・ブラザーズ 最高 WON'T BE LONG 1990/08/22 3 100.9 11.1
2番ヒット Beautiful People 1992/01/22 30 9.1
山下達郎 最高 クリスマス・イヴ 1986/11/28 1 153.1 3.7
2番ヒット RIDE ON TIME 1980/05/01 3 41.7
浜田省吾 最高 悲しみは雪のように 1992/02/01 1 170.3 8.1
2番ヒット アヴェ・マリア 1992/12/12 6 21
GAO 最高 サヨナラ 1992/04/21 3 123.6 8.9
2番ヒット 「月」に吠える朝 1993/07/21 19 13.9
織田哲郎 最高 いつまでも変わらぬ愛を 1992/03/25 1 92.9 5.0
2番ヒット 君の笑顔を守りたい 1994/04/23 8 18.6
J-WALK 最高 何も言えなくて…夏 1991/07/21 7 98.8 3.4
2番ヒット 何も言えなくて 1991/12/16 20 28.8
THE 虎舞竜 最高 ロード 1993/01/21 3 199.7 3.4
2番ヒット ロード~第二章 1994/01/01 5 59.2
class 最高 夏の日の1993 1993/04/21 3 115.5 3.4
2番ヒット もう君を離さない 1993/10/18 4 33.7
稲垣潤一 最高 クリスマスキャロルの頃には 1992/10/28 1 140.6 4.5
2番ヒット ドラマティック・レイン 1982/10/21 8 31.4
山根康広 最高 Get Along Together~愛を贈りたいから~ 1993/09/06 5 121.1 4.7
2番ヒット あの時のように 1994/02/05 13 25.8
広瀬香美 最高 ロマンスの神様 1993/12/01 1 174.9 3.2
2番ヒット promise 1997/11/02 4 54.2
L⇔R 最高 KNOCKIN’ ON YOUR DOOR 1995/05/03 1 134.5 3.2
2番ヒット HELLO,IT’S ME 1994/10/21 10 41.8
To Be Continued 最高 君だけを見ていた 1993/03/21 4 57.2 2.2
2番ヒット 逃げたりしない 1994/06/01 14 26
岡本真夜 最高 TOMMORROW 1995/05/10 1 177.3 3.6
2番ヒット FOREVER 1996/02/12 4 48.9
田村直美 最高 ゆずれない願い 1994/11/09 7 109.2 3.0
2番ヒット 光と影を抱きしめたまま 1995/10/25 8 35.9
たま 最高 さよなら人類 1990/05/05 1 58.9 6.4
2番ヒット 夕暮れ時のさびしさに 1990/12/10 9 9.2
Le Couple 最高 ひだまりの詩 1997/05/16 2 155.5 14.5
2番ヒット Sofa/片想いのオレンジ 1997/10/29 24 10.7
SIAM SHADE 最高 1/3の純情な感情 1997/11/27 3 69.9 4.0
2番ヒット グレイシャル LOVE 1998/05/13 10 17.3
川本真琴 最高 1/2 1997/03/21 2 73.1 2.2
2番ヒット DNA 1996/10/02 8 33.7
BAAD 最高 君が好きだと叫びたい 1993/12/01 16 37.6 7.5
2番ヒット LOVIN’ YOU 1994/05/26 23 5.0
平松愛理 最高 部屋とYシャツと私 1992/03/21 4 93.1 2.7
2番ヒット 戻れない道 1993/11/03 7 33.9
藤谷美和子 最高 愛が生まれた日 1994/02/21 5 132.7 4.8
2番ヒット スペアキー 1994/11/14 13 27.9



 同じおよそ200万枚売り上げたアーティストでも、KANと篠原涼子・THE 虎舞竜では、分布に大きな差があることが分かる。最も左に外れた位置にいるのが、「川本真琴」と「To Be COntinued」であり、これら2組は最も継続的に売れたタイプに近い。
 このグラフは”一発屋”及び”一発屋に近いアーティスト”だけを集めており、継続的な人気を獲得した一般的なアーティストとの違いが分からない。


アーティストタイプ別の散布図

 そこで、本稿ではビーイング系アーティストのプロットを追加して比較してみる。
  1. ビーイング系:赤色
  2. その他:青色
と色分けして散布図を作ってみた。
 誰からが一発屋で誰からが継続型かというのは難しいが、B'z, ZARD,TUBEなどは継続型の最たる例で、グラフ中のかなり上の方を占めている。一方で、大事マンブラザーズやGAO、小野正利などは典型的な一発屋タイプで、グラフの底の方にいる。ということは、このグラフのプロット位置から、アーティストが一発屋型か継続型かということが判別できる。
 誰の目にも明らかなタイプは問題ないとして、人によって一発屋かどうかの評価が分かれるタイプのアーティストはその分類が難しい。例えば、岡本真夜の代表曲と言えば疑いなく「TOMORROW」だが、その他のヒット曲を言うことができる人はそう多くないだろう。そういう意味で、一発屋といっても過言ではないだろう。しかし、アルバムは結構高セールスを記録していたりするので、なかなかその判断は難しい。
 ここでは、「①2番ヒットシングルの売上が最大ヒットシングルの売上の1/3に満たない、②二番ヒットシングルの売上が50万枚未満である、という2つの条件を満たす場合、一発屋として扱う」として基準を定めてみる。
  1. ビーイング系 一発屋型:橙色
  2. ビーイング系 継続型:赤色
  3. その他 一発屋型:青色
  4. その他 継続型:水色
の4つのタイプに分類、色分けして散布図を作ってみた。
 その基準直線を境に分けてみると、上のグラフのように、一発屋と思しきアーティストとしてあげたアーティストのうち、「篠原涼子」「広瀬香美」「川本真琴」「平松愛理」「To Be Continued」の5組は二発以上のヒット作をもつと分類された。ただし、The 虎舞竜に関しては、2作目以降も全て「ロード」なので、実質的に同じ曲とみなして例外扱いとする。
 篠原涼子は一連の小室ブームの中でメガヒットを放ったという経緯があるため、(今の人の記憶に刻まれているかどうかは置いておいて)何曲かヒット曲を持っている。このあたりは、KANや大事マン・ブラザーズのように本当に一発だけ当てたタイプとは異なる。広瀬香美は、冬の女王として冬の定番曲を何曲か持っているし、作曲家としての顔を持ちあわせている。 平松愛理や川本真琴は、1番ヒットでもミリオンに到達していない上に、スマッシュヒットが何曲かある。
 y=1/3xの直線でくっきり分かれているわけではないので、あまりきれいな分け方とは言えないのかもしれない。しかし、アーティストの名前を見ると、イメージと合っている、つまり妥当な線引きと言えるのではないだろうか。

 とは言っても、浜田省吾や山下達郎、広瀬香美といった面々は長年にわたってキャリアを築いていたり、裏方の作曲家として活躍していたりもする。そういったアーティスト達を数字だけで盲目的に一発屋アーティストに分類するのはナンセンスである。


アルバムの売上も考慮してみる

 そこで、アルバムの売上も考慮してみる。
 まずは、アルバムがミリオンヒットを記録しているアーティストに関しては一発屋から外してみよう。前回の記事で述べたように、アルバムの売上が高いアーティストはアーティスト性が高く、安定した人気を得ている場合が多い。

シングルとアルバムの相関について詳しくはこちら↓ 3. シングル売上とアルバム売上の相関



 新たに緑色でプロットしたのが、アルバムがミリオンヒットを記録しているアーティストである。ソロの大物が多い。90年代はあまりソロが売れなかった時代なので、そういったところも影響しているのだろう。

 さらに、アルバムが最高位1位を記録しているアーティストも除外してみる。
 アルバムの週間1位を記録しているアーティストは、境界の直線に近いアーティストが多いことが分かる。一発屋の定義にアルバムの売上まで考慮するべきかどうかは難しいところであるが、感覚的には田村直美や岡本真夜は一発屋と呼んでも差し支えないのではないだろうかと思う。

 また、ビーイング系からは、B.B.クィーンズ、織田哲郎ソロ、BAADの3組が一発屋としてランクインしているが、織田哲郎に関しては、提供曲でのヒットは多数で、広瀬香美や山下達郎と同類と言えるだろう。

 一方で、ビーイング系の赤のプロットを見てみると、多数の作品が売れているアーティストが多いなぁという感想を抱く。90年代、ビーイング系は時代の寵児であっただけのことはあるし、そこまで売れていないアーティスト(MANISH,ZYYG,PAMELAHなど)でも、それなりに固定ファンがいて、売上自体は小さいながらも、継続的に中小ヒットを出していたことが分かる。



 というわけで、今回は90年代の一発屋アーティストは以下の条件を満たすアーティストであると定量的に結論づけた。

  1. 2番目に売上の高いシングルの売上が最大ヒットシングルの売上の1/3未満であること
  2. 2番目に売上の高いシングルの売上が50万枚に満たないこと
  3. アルバムでミリオンヒットを記録していないこと
以上の3つの条件を満たすアーティストがいわゆる”一発屋”であり、以下のアーティストが該当する(売上の高い順)。本記事で4つ目に掲載したグラフの青プロットのアーティストが該当する。 ※筆者が思いついた限りであり、これが全一発屋アーティストではない。
(再掲)


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雑論>4. 黄金の90年代 一発屋アーティスト