明石昌夫のサウンドの特徴

 今回は明石昌夫のサウンドの特徴を素人なりに考察してみたい。

明石昌夫の画像


明石昌夫のサウンドの特徴

 明石昌夫ビーイングの黄金期を支えたビーイングのメインアレンジャーにして、B'zのサポートメンバーでもあり3人目のB'zと呼ばれた。葉山たけしと並び称されることが多いが、もともとは葉山たけしのアレンジは明石昌夫の模倣が始まりなので、ビーイングらしいサウンド作りの創始者と言われれば明石昌夫になる。

 80年代半ば、ビーイングには専属のアレンジャーがいなかったため、織田哲郎の作編曲、亜蘭知子の作詞で、ビーイングの稼ぎ頭だったTUBEに主要な楽曲の提供を行っていた。作曲家「織田哲郎」、作詞家「亜蘭知子」に続く3枚目のピースとしてはハマったのが編曲家「明石昌夫」であった。この3つのピースがそろってから、ビーイングは急成長を遂げることになる。(ただし、作詞は作詞家からボーカルに移行していく。)

 明石昌夫のサウンドの主な特徴を列挙する。 以下ではこれらの特徴について詳しく解説していく。


①シンセを多用したインパクトのあるサウンド

 90年代前半の明石昌夫が時代を作っていた時代のサウンドの代名詞と言えば、オーケストラヒット(オーケストラルヒット、オケヒ、オケヒットとも)である。彼はオケヒをはじめとするシンセサイザーの音を多用した生音っぽい打ち込みのサウンドを展開した。オケヒの使用は91年~94年の4年間に集中しており、その後、ほとんど使われなくなったことから、今となっては非常に時代性の強いサウンドとなっている。
 オケヒの音とはどういうものなのか分からない方のために、シンセによるオケヒの聴き比べ動画を見つけたので、貼っておく。  上記動画で3番目に演奏されているRoland社製の「JUPITAR-80」の祖先にあたる「JUPITAR-8」は明石昌夫が使用していたシンセの1つである。詳しくは本人のYouTube動画により明かされているが、以下のようなシンセサイザーを主に使っていたとのこと。
 オケヒが使用されている例としては、ZARDの「こんなにそばに居るのに」の間奏~ラスサビに入る部分、B'zの「ZERO」のサビのシメの部分、T-BOLANの「じれったい愛」のBメロなどがある。挙げた曲から分かるように、インパクトを与えるために使われるので、サビ頭やサビの終わりに使用されることが圧倒的に多いが、中には「じれったい愛」のようにサビ以外で使われるためこともある。
 オケヒの他にも、ブラスやピアノ、ベースなどでもシンセを多用している。特に、ZARDは(元々形式上はバンドであったが)ソロということもあり、ギター以外は打ち込みであることが多いらしい。ZARD以外でも、ビーイングにはバンドではなく”ユニット”が多かったというのも打ち込みを増やす要因となったに違いない。 しかしながら、かなり生音っぽい打ち込みとなっており、正直に言うと、筆者のような素人には打ち込みだとはあまり分からない。

 しかし、”ミョンミョン”鳴っている特徴的なシンセベースだけは分かりやすい。この特徴的なシンセベースの使用も91~94年頃に集中している。以下に挙げたシングル以外にも、B'zのアルバム「IN THE LIFE」の「Wonderful Opportunity」なんかは特にシンセベースが分かりやすい。


②インパクトの大きいイントロ

 明石昌夫のアレンジにはとにかくインパクトの大きいイントロが多い。イントロは曲のつかみである。ストリーミング配信の時代になった現代では、イントロがスキップされる要因になるため、どんどんイントロが短くなっているという話はよく知られたところだが、つまらないイントロが多いということの裏返しとも言えるだろう。 しかし、逆に言えば、イントロで強いインパクトを与えることができれば、聴き手に「かっこいい!」「続きを聴ききたい!」と思わせることができる。

 インパクトの大きいイントロの例として挙げられるのが、B'zの「ALONE」だ。メロディー自体は松本孝弘が考えたらしい(明石昌夫のYoutubeより)が、そこにオケヒを使ってインパクトを強めるのがなんとも明石昌夫らしく、非常にかっこいい。 さらに「ALONE」(フジテレビ系列関テレのドラマ「ホテルウーマン」主題歌)の発展形と言えるのが、同系列のドラマのタイアップのついたちょうど1年後のT-BOLAN「Bye For Now」(ドラマ「ウーマンドリーム」主題歌)である。シンセによるオケヒ・ブラスの乱打で、音数とイントロの時間が増えたことで、さらにインパクトが強烈に強められている。松本孝弘にも「Bye For NowのイントロはALONEのイントロよりはるかに良い」と言わしめたらしい。(出典動画)
 他にも、 など、イントロが印象的な曲を挙げると、枚挙に暇がない。


③ハードなディストーションギター

 ビーイングのメインアレンジャーの明石昌夫、葉山たけし、池田大介の3人を比べると、明石昌夫が最もハードなアレンジを行う。特に、音色としてはLAメタル(世界的にはグラムメタル)に近いディストーションギターの音の主張が強いのが最も特徴的で、攻撃的なアレンジを得意としている。

 明石昌夫本人は、「B'zで新しいことを実験・挑戦して、それを応用してZARDやWANDS、T-BOLANに活かしていた」と語っている。また、ZARDだからB'zとは異なったアレンジをするということはなく、基本的にはどのアーティストに対しても同じようにアレンジを行っていたとのこと。異なっているように聴こえるという意見に対しては、「歌っている人が違うと、歌い方・声質が異なるから違うように聴こえるだけではないか」とも語っている(出典動画)。 しかし、筆者にはやはり同じようには聴こえない。確かに、明石昌夫によるアレンジは同じかもしれないが、ZARDやWANDSの場合、ミックスでかなりギターの音が抑えられているように感じる。どう考えても、B'zとZARDではギターの主張のレベルが同じには思えない。

 ZARDやMANISHのレコーディングでは、ほぼ必ずギターに鈴木英俊を指名して用いていた。明石昌夫曰く、「鈴木英俊くんが一番僕が思うロックの音を出してくれた」とのことである。基本的にどの曲でも同じようなディストーションギターの音が楽しめるが、特に、ZARDなら「きっと忘れない」「この愛に泳ぎ疲れても」、MANISHなら「素顔のままKISSしよう」「君が欲しい 全部欲しい」あたりが特にディストーションギターの強い主張を感じられる。


④ドラマチックな構成

 最後の特徴はドラマチックな構成である。一般的な楽曲の構成であるAメロ、Bメロ、サビという主旋律自体は作曲家の仕事によるものである。しかし、そのメロディーをつなぐのは編曲家の仕事になる。

 ビーイング系の楽曲に多く見られるのが、サビ前のドラム・シンセの乱打と休符である。この相反するドラムやシンセといったアタックの強い音を乱発することでインパクトをもたせる手法と、むしろ休符を作ることでサビ頭のインパクトを強める手法を使い分けていた。 これにより、Bメロ(静)→サビ(動)(例:ZARD「きっと忘れない」、ZYYG, REV, ZARD & WANDS「果てしない夢を」)や、Bメロ(動)→サビ前(静)→サビ(動)(例:B'z「MOTEL」)といったいかにも日本人が好みそうなドラマチックさを演出していたのである。
 シングル曲は、とにかくインパクトを強めてメロディーや曲名を覚えてもらわないといけないので、1番も2番も同じ展開になっていることが大多数だが、アルバム曲では、1番はしんみり始まり、2番以降でドラムやギターが本格的に入ってきてハードになるという、曲単位でのドラマチックな構成も見られる。 例えば、ZARDの「OH MY LOVE」の9曲目「来年の夏も」はその典型例で、1番はボノサバ調の曲調で進むが、2番が始まると同時にドラムとディストーションギターが入ってきて、いわゆる”ZARDらしい”曲調へと変化する。間奏まで来るとブラスが入り一層明るく派手になって、ラスサビではドラムの跳ね方も変わり、ギターとピアノのアウトロで畳みかけるように終わりを迎える…というなんともドラマチックな構成になっている。



 総じて言えることは、明石昌夫のアレンジはメロディーを引き立てるアレンジで、”引き算の美学”があるように感じる。あれもこれもと足していってもうるさいだけになってしまう。その点、明石昌夫のアレンジは、異なる音色が過不足なく配置されており、バッティングしないようにうまく”引き算”がなされている。このあたりは知的なアレンジだなあと感心させられる。地頭が良いことも関係あるのだろうか?(明石昌夫は阪大基礎工学部卒)

 明石昌夫はYoutubeの動画本数も多く、話すネタがたくさんあったことから、思っていたよりも長くなった。次回は葉山たけしの特徴について取り上げる。葉山たけしの情報は明石昌夫に比べるとはるかに少ないので次の記事の文量がやや心配なところではあるのだが…


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